2011年9月23日 02:54
「誰にもいわないで!」といわれ、約束したことが何度かある。それは決まって秋のことだった。
白樺の葉がレモン色をしてくると、秋のはじまりだ。この季節のお楽しみはなんといっても、キノコ狩りだろう。
キノコのなかでも、フィンランド語でカンタレッリと呼ばれるものは人気が高い。よく成長したものは狐色で、形は手をすぼめて外側に少し傾けたようなかんじだ。足は、すっとほそく、空洞になっている。バターをフライパンにとかし、軽く胡椒と塩をふるだけでおいしいキノコだ。
さて、秋がやってくると、このキノコのために森へと出かけていく人は多い。
ここからが話のみそなのだが、どうやらみんな自分だけの採り場所をもっているようだ。このキノコは毎年同じ場所にでてくるので、一度見つけてしまえばしめたものだ。かつてのルームメイトは、「昔から、家族代々の場所がある。他の人には言わないの」と、言っていた。こんなこともあった。ある時、友達のおじいさんがキノコ狩りに誘ってくれた。彼の秘密の場所までたどりつくのに、なんと車で2時間もかかった。森を歩きながら、おじいさんの奥さんが「この場所は、私達くらいしか知らないのよ。内緒にしてね」と、いわれた。
せっかく教えてくれた場所も生まれながらの方向音痴が災いして、いまとなってはどこであったのかさっぱり分からない。森の奥で、キノコがひっそりそんな私を笑っているような気がする。
(ちなみに、このキノコは日本語ではアンズダケといいます。残念ながら、あまり食べられていないようです。お店でも見たことないですし。)
(永井涼子)
2011年9月 6日 17:45
パートナーを選ぶ時。生まれも育ちも違う二人が、初めて一緒に生活をすることになって、お互い戸惑うことが多々あるでしょう。同じ国の相手でもそうなのだから、異国の人だったら、風土も文化もまったく違うのだから、さぞかし、と思います。今回の永井さんも文章は、その辺りを垣間見ることが出来て、興味深いです。
太陽の夏、友人Aさんはフィンランド人男性とめでたく結ばれた。だんなさんは日本料理をつくるのも、食べるのも大好きな人だ。遊びにいくと、二人で台所に立っているという微笑ましい光景をよく目にする。そんな二人だが、お互い相手の行動に、驚きと戸惑いを隠せないこともあると語ってくれた。
まず、奥さんから。
たとえばだんなさんはシャワーを浴びた後、速攻で靴下を履く。これが、日本人の妻にはちょっと許しがたい行為にみえてしかたがない。なんといっても、それは湿気大国ジャパン出身者である。「お風呂上りに靴下をすぐに履くなんて、まるで水虫さんいらっしゃいといっているようなものよ!」と、最初はやめさせようと四苦八苦したらしい。
が、かたやだんなさんは"カラッと乾燥ならびに冬はさむいよ"王国の出だ。そこでは部屋にタオルを濡れたままほっておいても、紙のようにパリパリに乾き、長い冬には、冷えることこそ命取りなのだ。母親から、「早く靴下を履かないと、風邪をひくわよ!」と、きっと何度も言われて育ったことだろう。一分一秒でも足先を早く暖めることの大切さは、もうすっかり染み渡っている。二人はフィンランドに住んでいるし、後日、奥さんは気にしないことに決めた。
一方だんなさんにとっても、妻との間でのりこえなければいけない壁がある。それは、卵ごはんのことだ。自分の妻が生卵をごはんにかけて食べてしまうことに、はじめ驚愕の表情を隠せなかった。そう、フィンランド人を前に卵ごはんを食べていると、「サルモネラ菌がいるかもしれないよ、大丈夫?」と不安げな表情で見つめられることがよくある。
奥さんは、"卵とご飯のうみだす絶妙なハーモニー"を連れ合いにも理解してほしいと、切望していた。何度か、「あなたもいかが?」と誘ってもみたが、いまだ成功していない。
だが彼は最近、すき焼きと生卵の関係はみとめてきたのだそうだ。"卵ごはん"への道を歩みだす日もそう遠いことではない(かもしれない)。
(永井涼子)