「誰にもいわないで!」といわれ、約束したことが何度かある。それは決まって秋のことだった。
白樺の葉がレモン色をしてくると、秋のはじまりだ。この季節のお楽しみはなんといっても、キノコ狩りだろう。
キノコのなかでも、フィンランド語でカンタレッリと呼ばれるものは人気が高い。よく成長したものは狐色で、形は手をすぼめて外側に少し傾けたようなかんじだ。足は、すっとほそく、空洞になっている。バターをフライパンにとかし、軽く胡椒と塩をふるだけでおいしいキノコだ。
さて、秋がやってくると、このキノコのために森へと出かけていく人は多い。
ここからが話のみそなのだが、どうやらみんな自分だけの採り場所をもっているようだ。このキノコは毎年同じ場所にでてくるので、一度見つけてしまえばしめたものだ。かつてのルームメイトは、「昔から、家族代々の場所がある。他の人には言わないの」と、言っていた。こんなこともあった。ある時、友達のおじいさんがキノコ狩りに誘ってくれた。彼の秘密の場所までたどりつくのに、なんと車で2時間もかかった。森を歩きながら、おじいさんの奥さんが「この場所は、私達くらいしか知らないのよ。内緒にしてね」と、いわれた。
せっかく教えてくれた場所も生まれながらの方向音痴が災いして、いまとなってはどこであったのかさっぱり分からない。森の奥で、キノコがひっそりそんな私を笑っているような気がする。
(ちなみに、このキノコは日本語ではアンズダケといいます。残念ながら、あまり食べられていないようです。お店でも見たことないですし。)
(永井涼子)
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