昔、靴下を洗濯した後なぜか片方が見つからないことがよくあった。探している時は、大抵どこかへ出かける朝のことで、本当に大慌てだった。
今は、靴下探しに翻弄されることは少なくなった。が、5本指の靴下がたんすに入っていない時は、「しまった!」と慌てることはよくある。5本指のそれはふとしたことでいただいて、そのすっかり病みつきになってしまった。指が一本ずつ分けられているせいか、普通の靴下のようなギュッとした感じがないのが、うれしい。
フィンランドでも、愛用していた。履いていると決まって、
「カエルみたい」
「おサルの足?」
と、現地の人に訝しげに笑われる。それで、その汚名(?)を取り払うべく、「気持ちいいよ」と伝えるために、親しくしていた人にプレゼントをしたことがある。始めは、不思議がっていても、履いてみると良さが分かってくるものらしい。後日、日本からの友人が遊びにくるとたまたま話すと、「あれ、頼んでもいいかな?」なんて注文を受けることもあった。
5本指靴下が日本のものなら(たぶん)、逆にフィンランド、北欧ならではの靴下は「手編み」のものだ。もっていない人はいないと言ったら大げさかもしれないけど、それくらい使われる頻度は高い。夏でもサウナの後に、ほてった足先に何年も使い古されたそれをゆるりと履く。冬は、普通の靴下の上に毛糸の靴下を履けば、足先が冷えずにすむ(ちなみに、お家の中ではしっかりめのサンダルも、四季を問わずに履いている)。どこかのお宅に訪問する時も、カバンにこれをそっと忍ばせておく。そうすれば、少し寒さを感じたらそれをすぐにスッと出して、何気なく身につける(日本のように、来客者にスリッパをだす習慣はないので)。
どこで手編みの靴下を手に入れるのかというと、もちろん小さなお店や市場(青空マーケット)でも買える。けれど友達を見ていると、大半は家族や親戚・または近所などの近しい人が編んでくれたもののようだ。「ちょっと編んであげたよ」と手渡してくれる。人の和から生まれてくるものなのねと、ジーンとした。ただそんなに特別なことではないようで、「フィンランドの靴下文化に感動したよ!」と、友達に伝えてもあまり分かってもらえなかったような・・・・
それから、靴下を編めるようになりたくなり、たまたま遊びに行った友達のおばあちゃんに頼んでみた。友達のおばあちゃんが快く教えてくれることになったのだが、いままでマフラーしか編んだことの無い者には、「手編み靴下峠」越えは、まさにヒマラヤの如しだった。結局、峠に到達することは叶わず、下山した。後日、友達が「ほら、これおばちゃんが渡してくれって」と茶色の包み紙をくれた。中には桃色の靴下が入っていた。そういえば、おばあちゃんとお茶を飲んだ時に「あなたの足のサイズは?」と聞いてくれたっけ。
結局、編めずじまいにいるけれど、おばちゃんが編んでくれた靴下はいまでも重宝している。
(写真は、そのおばあちゃん靴下です。それと、冬になると大活躍のフェルトの部屋履きです。 永井涼子)