久々に、永井さんが文章を送ってくださいました。
ここのところ間が開いているな、と思ったら風邪ひきだったのですね。
どうぞ、お大事に!
************************
最近、風邪をひいてしまいました。
じつは今も進行中。周りの人はよくひいていたのだけど、自分だけは大丈夫と高をくくっていたのが運のツキ。子供の頃は、「暴れん坊将軍」の再放送を気楽に見ていただけの風邪ひきだったのに。でも大人になると、「早く治さなきゃ」と焦るばかりのこの頃だ。
それで色々やってみた。蜂蜜とショウガを摩り下ろしたのを飲んだし、知人から進められたニンニク焼きにも挑戦してみた(生焼けだったらしく、涙がでるほど胃にきてしまった)。一進一退を繰り返している気がする。
今朝もうつらうつらしていた。が、その時に黒いマントが翻っている夢を見た。起きて思い出した。あれは、かつてのルームメートの女の子。ドイツ人で、とてもきれいな人だったけど、なぜか、いつも全身黒ずくめ。筆箱やシーツなど身の回りのものも、黒一色に染まっていた。時々、服の裏地が赤いこともあったりして、ドキッとしたこともあった。性格もいいし、黒より他の色を着ても似合うのにと、よく思った。でも、逆に黒が彼女の魅力をいっそう引き立てていたのかもと今は思う。
そんな彼女は、フィンランド人のボーイフレンドがすぐできた。5人暮らしの女の子だけのアパートに、彼は緊張するでもない。いつも気楽に台所でコーヒーを飲みながら、みんなと談笑していた。すぐに景色の一部のように、みんなにとけ込んでいたのは、見事というより他はなかった。
ある日、そんな彼は風邪をひいた。それで彼女は、すぐにまず大きな鍋にお湯を沸かし始めた。
お湯が沸いたら、彼女は持っているありったけのハーブティー、紅茶のパックを鍋に惜しみなく投げ入れる。ちょっとグツグツさせて、そのあと、芳香ただよう液体を洗面器に注いだ。最後に、ボーイフレンドに、洗面器のほうに顔を近づけるように言った。彼が恐る恐る(?)顔を近づけた後、彼女はバスタオルをパッと頭にかけて、数分そのままにさせていた。熱くなったら、何回かタオルから頭を出していたけど、たぶん30分くらいは続けていたようだった。治療はそれでおしまい。
「へー、面白いなぁ」と、その頃、私はのんきに見物していた。あの後、彼が何と言っていたのか覚えてはいないけど、ますます黒ずくめの彼女にぞっこんになっていったのは間違いない。ずーっと、思っていた、「ルームメートは魔女みたいだ」と。あれは、治療というより魔術なのだと感じていた。
今日、そのまねっこをしてみた。家には、ハーブティーはない。なので、ドクダミにした。バスタオルを頭まで被ってドクダミ茶の入ったボールに顔を近づける。「あら。この世にボールとドクダミしかなくなったような静けさが・・・」
蒸気がホカホカと顔をあたため、いままでぐすっていた鼻から息が吸える!汗をたくさんかいて、タオルをとったら、空気が爽やかだ。「汗をかくのも、風邪にはいい!」と、再発見した。
蛇足だけど、これはプチサウナのようなものかもしれない。蒸気もでるし、ホワホワ暖かいので。そういえば、フィンランドでは病気の時の民間療法として、昔からサウナに入る・ウォッカを飲む・木でできたタールを傷口に塗るというのがありました。諺にもなっている。
「もし、サウナもウォッカも、タールも効かなかったらお手上げよ (死んでしまうよ)・・」 怖い・・・。
ちなみに、私にはなんとか、ドイツの魔女の技が効いてきたようです。まだまだお手上げにはならないゾ、フィンランドの諺さん。
(永井涼子)