トマト
トマトがあると、けっこう嬉しかったりしませんか?
赤く丸く、緑のヘタをちょこんとつけたその姿。夏はそのまま塩をつけていただくだけでおいしい。
トマトにはけっこうお世話になっている。
フィンランドで始めての一人暮らしの時は、市場によく"トマト袋"を買いに行った(トマト袋は勝手に名づけたのだけど)。熟れすぎたトマトが袋にパンパンに入れられていて、1ユーロか2ユーロで売られているものだ。それを使って、トマトソースをよく作り、スパゲティばかり食べていた(ようは、私に料理の腕がなく、満足に作れるのは当時それくらいだったのだ)。まるで、イタリア人並みに食べていたのではないだろうか。
トマトをよく食べていたせいか、縁あって、夏にフィンランドのトマト農家でアルバイトをすることになった。ビニールハウスで栽培されているが、日が沈まない白夜も関係して、トマトの生長は早い。農家にしてみれば、猫の手も借りたい忙しさだったのだろう。
バスにゆられてたどり着いた農家では、だんなさんとおかみさんが迎えてくれた。まず、だんなさんは、どんなトマトがAクラスで、小ぶりだったりするとBクラスになるかを教えてくれる。そして、摘み取ったトマトをAのカゴかBのカゴにいれるのが仕事だった。「はい、わかりました!」と返事はよかった私だが、いざ始めてみると「君は、大きいのか、小さいのか?」とトマトに心の中で聞いてばかりいた。トマト一つでも、AかBかなんて単純に割り切れるものではないなと思った。
そんな思いを察したのか、だんなさんとおかみさんが飛んできた。おかみさんは、私がBのカゴにほおったトマトをみて、
「まぁ、これは王様のトマトよ!Aでしょ!」
と、驚きの声をあげた。わたしにはトマトを見分ける才能(?)がないのだと、瞬く間に落ち込んだ。が、次の瞬間だんなさんが、
「え、そう?これでいいんじゃないの?」
と、言った。3人の間を、戸惑いの空気が流れていった。
今でもトマトを見ると、あの時の情景が思い浮かび、ときどき苦笑する。バイトを終えて帰るときに、おかみさんが山のように熟したトマトをお土産にくれたことはいい思い出だ。でも、やっぱり本音を言えば、トマトが大きかろうが小さかろうが味に変わりはないと思った(やっぱり向いていなかったのね・・)。でも、夜、目をつぶると鮮やかなトマトの大群がまぶたの裏に浮かんでくるという不思議な感覚があって、あれはオモシロかったな~。
最後に、蛇足だけど、トマトは体を冷やす作用があるとのこと。冷え性の人は、たくさん食べるとしんどくなりますよ、ご注意!私も気をつけようと思います。
(永井涼子)
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